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帰山栄治作品解説集

マンドリンオーケストラの為の四章「生きる」

編成 演奏時間
独奏尺八 独奏三味線 Mn1 Mn2 Ma Mc Ml Gt Cb 打楽器[締太鼓(高・低) 樋胴 木魚(高・中・低) 木鉦] シンセサイザー 52分
演奏日時 備考 演奏団体
1987.7.5 初演(未完成。全4楽章のうち第4楽章の途中で中断) 「帰山栄治 作曲の世界 その2」

マンドリンオーケストラの為の四章「生きる」は、1987年7月5日に名古屋市芸術創造センターで行なわれた「帰山栄治作曲の世界 その2,〜邦楽器/マンドリン/ギターとともに〜」の為に作曲され、同コンサートにおいて初演された。
しかし、第1〜3章までは完成したが、第4章は当該コンサートまでに作曲が間に合わず、未完成のまま初演された。以後、残りを作曲されることはなく、当然のことながら再演もされていない。
帰山氏もさすがにもうこの曲を完成させる気はないそうである。ただし、演奏される機会が得られれば、第1章、第2章、第3章のそれぞれを分割して改作したいそうである。そしてこのたび、第1章のみ分離して改作し「I-ZA-NA-I」として2000年3月19日に「名古屋大学ギターマンドリンクラブOB演奏会」において初演された。ぜひ、第2章、第3章も独立の楽曲として改作され再演される事を願ってやまない。
ちなみに、1987年6月23日に電気文化会館イベントホールで行なわれた「帰山栄治作曲の世界 その1, 〜DANCER 野々村明子とともに〜」において初演された、『「生きる」・・・冬と春のあいだ・・・』とこの『四章「生きる」』は別の曲である。

【第1章】

楽譜によると1987年4月21日完成。演奏時間はこの第1章だけで25分にも及ぶ。ちなみに第1章には尺八、三味線、打楽器は入っていない。
Adagio,4/4で始まる。4分音符、付点2分音符、のリズムを2回繰り返し音階をユニゾンで登っていき、4度(時折3度)のハーモニーで少しずつ降ると、ギターソロが始まる。次に同様な音形の後にマンドリンのソロが続く。ギター、マンドリンのソロが2回現れたのち、もう一度出だしの音形が低弦によって奏されるが、次にはソロではなく幅広いトゥッティが現れ、クレッシェンドとリタルダンドを伴って一度高潮をむかえる。ここは、ショスタコーヴィッチの交響曲第5番の第3楽章のフルートとハープのデュオのまえを思わせる極めて美しい場面である。
その後、a tempo(練習番号6、以下、数字だけを記す),Andanteを経て、4分音符≒58, 4/4 + 2/4の緊張感を伴った3連符主体の叩きつける様な音の場面へ移る(7)。途中から4/4 + 3/4へリズムが変わり、次第に動きを持ち出し(10の5小節目以降)、テンポを増してマンドリンとギターのソロに彩られた美しくかつ力強いメロディーへ移る(12)。
再び、緊張感のある場面が現れ(17)、最初に出て来たようなギターソロなどを経て、ソロギター、及び、低弦の6連符が特徴的なAndante lento(22)へ移る。それが盛り上がりを見せ、落ち着くと、Piu mosso,2/4(25)で16分音符の分散和音のなかに出だしの音形が現れ、そして、同音を3度続けた後に主に2度で動く場面となる(26)。一度盛り上がり、そして勢いを失い、そして更に盛り上がるが、再び収束していき、ギターとマンドラによって最初の音形が奏され、ギターソロ、マンドリンソロとやわらかい和音のなかで静かに終わる。

【第2章】

楽譜によると1987年4月29日完成。演奏時間は9分半。この第2章以降、尺八、三味線、打楽器が加わる。
テンポ指定、速度記号なしで、拍子は3/8(初演時のテンポは1小節=66〜72位だと思われる)。交響曲で言えばいわゆるスケルツォにあたる楽章と言えよう。
打楽器(締太鼓, 樋胴)のソロで始まり、そのリズムによる旋律(以下、A)をオーケストラが奏でる。Aによる三味線ソロを挟み、トゥッティの後、Aとは対照的な流れる様な新しい旋律(以下、B)による尺八ソロに移る。その最後に、三味線によりAが奏され、そしてトゥッティでBが奏される。しかしその中で三味線はあくまでA に固執しつづける。そして一旦テンポを緩め(Andante)、三味線、尺八と打楽器の掛け合いとなる。
テンポを戻し、一度この前半部分を繰り返した後、旋律の前半はBで後半はAととれる複合的な旋律へ移る。オケの8分音符のリズムに三味線のソロが現れるが、やはりここでもAが奏される。そしてテンポを速めてトゥッティでAを強奏して最後に強打で決めるが、それに続いて三味線、尺八によって「あらっ?」って感じでこの章を終える。

【第3章】

楽譜によると1987年5月16日完成。演奏時間は14分半。
Andante lento, 3/4で、マンドリン系楽器のユニゾンによる合奏とギターとの掛け合いで始まり、三味線、尺八、打楽器のソロの掛け合いが続く。
その後2/4となり、少しテンポを速め、16分音符のギターと三味線の細かい動きの上でマンドリンが憂いをもった旋律を奏でる。その後、尺八も加わり、その尺八に三味線が呼応し盛り上がる。そしてオケのみとなり3/4となり次第に弱まり、尺八と打楽器のソロが掛け合う。それが終わると、Lentoとなり、静かに終わる。
テンポからすれば、いわゆる緩徐楽章と言えるのだろうが、ギターの細かい動きや、尺八や三味線の力強いソロ、その他旋律の楽想からするとそうとも言い切れない。あくまで私的な感想であるが、表現されている世界は全く違うが、上述のような意味ではショスタコーヴィッチの交響曲第10番の第3楽章に似ているように感じられる。

【第4章】

未完成。演奏時間は2分半。
Lento, 4/4で、三味線の力強いソロをもって始まる。尺八のソロ、トゥッティを経て、再び三味線のソロが現れ、そのソロが終わりAllegroに移行するが、そのAllegroの1小節目、第4章全体で24小節目で作曲が中断してしまっている。おそらく楽譜になっている所は序奏で、Allegroが主部となる予定だったのであろう。

帰山氏の作品にはこの曲のように四章、あるいは三章、二章という曲がある一方、三楽章と言う曲もある。この「章」と「楽章」の差異について帰山氏は、「章」の方が独立性が低く、他の章との関係が強く、一方、「楽章」は独立性が高いそうである。
さて、「生きる」のウラ話であるが、私は「生きる」が初演された1年ほど前に帰山栄治氏と知り合ったのだが、当時、よくこのコンサートの事についてのお話を伺うことが出来た。「帰山栄治作曲の世界 その2」では、第1部で邦楽器の作品、第2部でギター・マンドリンの独奏曲とデュオ、第3部でマンドリン合奏の為の作品、という構成になっていたが、第3部では4曲作ることになっていたそうである。そこで、帰山氏は違う曲を4曲作るより、四章という長大な1曲を作る方が楽に作れると考えたそうである。それに対して私は、「四章として作り、少しでも間に合わなかったら、1曲も出来なかったことになり、その後その曲は見向きもされなくなってしまいかねないので、あまりにリスクが大きいのではないでしょうか?」と立場も顧みず若気の至りで言ったのを憶えている。
初演後、三味線の独奏をした三味線弥十介氏がこの曲は未完成であることを伝え、帰山氏が釈明の挨拶をした。そして、帰山氏が、「失礼かも知れないけれども、2年前に作曲した"ちまた"のおしまいの部分を景気良くやって、パッと終わりにしましょう」といい、続いて、三味線弥十介氏が、「四章「生きる」尻切れトンボと言う事で、しまった、ちまった、ちまたを演奏して・・・」と客席から失笑が聞こえる寒いギャグ(ごめんなさい)を述べたのち、「ちまた」のフーガ以降が演奏され、「帰山栄治作曲の世界」の幕は閉じた。

(西海)


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