SUSTAIN-50

提供:帰山栄治作品解説集
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編成 演奏時間
Mn1 Mn2 Ma Mc Ml Gt Cb 11分
演奏日時 備考 演奏団体
2022.6.12 初演 コンコルディア
2023.12.28 名大66回定演

作者は1943年福井県大野市に生まれ、62年名古屋大学文学部入部と同時にギターマンドリンクラブに入部、一年後指揮者となった。その後中田直宏氏に作曲を学び、クラブ内外で編曲を含め多くの作品を発表してきた。またチルコロ・マンドリニスティコ・ナゴヤをはじめとして、大学・社会人のマンドリン団体を数多く指導してきた経験を持つ。作品は多岐に渡り、マンドリン合奏曲以外にも吹奏楽曲、邦楽曲、合唱曲、劇音楽、舞踊音楽など多くの作曲、編曲活動に携わっている。1981年名古屋市芸術奨励賞授賞。1984年及び1988年、名古屋マンドリン合奏団と共に団長兼指揮者としてソ連(当時)公演。同合奏団の1992年の中国公演と1996年のオーストラリア公演に音楽監督兼指揮者として参加。1997-2004年、マンドリン合奏トレーニングのためのEnsemble ESCHUEを主宰指導。2004年に「カエリヤマファイナルコンサート」を開催。マンドリン合奏以外ではギター合奏に継続的な作品が書き下ろされており、現在10数曲を数えている。
 作品は初期の挑戦的な作品や西洋音楽の模倣などを皮切りに1970年代中期には独特な和声感と撥弦楽器の構造的特性やマンドリン属が持つ金属打楽器的な要素を活かし、更にそれらを集団体と捉える独自の音響設計的作風を確立した。それらは作品の根底に常に=現代社会の人間疎外の憂鬱の中で『人間の持つ宿命的な寂しさ』をしっかり見つめ、いかにして人間らしく生き抜くか=という音楽と人生の命題を宿し、作品に厳しさと温かさを与えて多くの若者たちを中心に支持された。80年代初頭の実験的ないくつかの作品を経て82年には「反核 日本の音楽家たち」に参画、Ouverture Historique No.4にはその旨を記している。80年代中期以降は侘(わび)寂(さび)に通ずる静謐の中に心理的描写を埋め込むような諦観とも言える美しさが独自の精神世界を産み、作風はギターを中心に据えるオーケストレーションなどが際立ってきた。特にライフワークのように書き綴られてきたOuverture Historiqueの世界は氏の円熟に併せ、またその折々の時代を映して作品群のマイルストーンとなってきている。最新作のNo.7においては梵鐘の音を模した響きから始まり、明確な調性感を持って未来を切り拓く者の為の音楽を改めて指し示した。また直近作「Memories of 60(Sixty)」や組曲「オタケとコタケ」においては回想的な表現や自然への回帰などますます円熟の度合いを増している。
本作は当楽団の創立50周年にあたり委嘱した作品で本日が初演となる。作品自体はシンプルな構造となっており、明瞭なモットーの提示、素朴で透明感のある旋律、人生を回顧するような歩みを感じさせるややゆっくりとしたAllegro、主題の急速なAllegroへの展開、次世代への力強い歩みを感じさせる終結部など、各部分が落ち着いた4度の和声を中心に組み立てられており、コンコルディアのリピータの皆様がよくご存じの複雑な歸山作品のような難解さは一切ない。当楽団では歸山氏の作品をこの40年間継続して取り上げてきたが、これほど穏やかな作品は初めてである。2019年作の組曲「オタケとコタケ」で氏は幼少期を過ごした越前大野の情景を描き、原風景への回帰を描いたのに対し、本作では作品番号1である「前奏曲」を想起させる音楽が展開されており、音楽としての原点への回帰を思わせる内容となっている。氏の音楽はこの二つの作品を通して、「元居た場所」に帰っていこうとしているのかもしれない。タイトルにある50は私達の創立50周年にちなんでいる のと同時に50年を超えた氏の作曲人生を回顧したものでもあるのだろうと考えると一際感慨深いものを感じる次第である。

(コンコルディア第50回演奏会パンフレットより許可を得て転載)



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