1. 著作権者とその権利
音楽著作物の著作権を所有している作曲家、作詞家、音楽出版社(昔は楽譜の出版社を指しましたが、現在はCDを出版する会社が多数派です)などを著作権者と呼びます。ギタマン人にとってはほとんどの場合作曲家自身が著作権者であり、作曲家が亡くなったときは、特に譲渡契約がなければ著作権は遺族に引き継がれます。
著作権は著作物が創作された時点で発生し、著作者の死後50年を経過するまで保護を受けます。だたし、第二次世界大戦における連合国の著作物については、保護期間に戦争期間が上乗せされ、これを戦時加算と呼びます。
著作権者が持つ権利は広範にわたりますが、演奏会を開催するに当たって関係してくるのは「複製権」と「演奏権」です。
複製権
まず最初に理解すべきことは、音楽には形がないということです。作曲家の頭の中にのみ音楽が存在すると考えればいいでしょう。これは当たり前のことなのですが、このことをまず認識しておかないと様々な誤解が生じます。
音楽が無形の著作物であるということは、どのような形であれ音楽を有形化した「物」はすべて、音楽そのものではなく「音楽の複製物」と解釈されます。作曲家自身がスコアを作成すること自体がすでに「複製」に当たります。譜面だけでなく、その音楽を録音することも「複製」していることになります。
音楽に形を与えて複製物を作ること、およびその複製物をさらに複製して複製物の数を増やすことは、著作権の一部として著作権者のみに許された権利であり、その権利を「複製権」と呼びます。
著作権者以外の者が複製を行うこと、例えばスコアやパート譜をコピーすること、演奏を録音すること、録音をCD化することなどは、著作権者(著作権者がJASRACと委託契約を交わしている場合はJASRAC)の許諾を得て初めて可能になります。
?ありがちな誤解?
- 誤解
- 出版譜が存在しなければ「著作権」の侵害にはならないので、スコアやパート譜をコピーしても差し支えない。
- 正解
- 「著作権」と「出版」に関する権利を別物と考えることからくる誤解です。「出版」は音楽を譜面にして頒布することですから「複製」の一形態にすぎません。したがって、出版譜の有無にかかわらず、「複製権」を持つ著作権者に無断で楽譜をコピーすることはできません。
なお、出版譜が存在する場合には、後述するように出版者の権利も保護されなければなりません。
- 誤解
- 著作権者(作曲者)の許可があれば、自由に楽譜をコピーしてよい。
- 正解
- 作曲者がJASRAC信託契約を結んでいない場合はその通りですが、JASRAC信託契約を結んでいる場合は正しくありません。
この場合、著作権の管理はJASRACに委託されておりますので、原則として作曲者は複製を許可できません。JASRACに申請して許諾を取る必要があります。
もちろん、後述の「演奏会の運営における著作権処理の実際」の冒頭にも書きましたが、まず作曲者と連絡を取り許可を得ることは信義上やるべきでしょう。
演奏権
公衆に聞かせる目的で楽曲を演奏する権利です。ギタマン人の場合、演奏会において演奏する権利と解釈してよいでしょう。
著作権者の許諾なしに演奏会で演奏することはまずあり得ないと考えられますが、念のため書いておきますと、演奏権も著作権の一部であって、その権利は著作権者が専有しています。
翻訳権、翻案権等(編曲権)
編曲と著作権の関係は少し複雑ですが、基本となる著作権として「翻訳権、翻案権等」があります。これは編曲の他に、原著作物をもとにして翻訳、脚色、映画化などの創作行為を行う権利の総称です。これらの創作行為による著作物を「二次的著作物」と呼びます。ギタマン人の場合「翻訳権、翻案権等」は編曲する権利と考えてよいので、簡便化のため以下では「編曲権」と呼ぶことにします。
「編曲権」は著作権者が専有しています。したがって、著作権者の承諾なしに編曲を行うことはできません。
編曲に関連して著作者が持つもうひとつの権利は「同一性保持権」です。「同一性保持権」は「著作権」ではなく「著作者人格権」のひとつで、著作物が著作者の意に反する改変を受けないことを保証するものです。しかし一方で,「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」は認められています。したがって、個々の改変と原曲との同一性は原著作者の意志だけで決まる事柄ではなく、ある許容範囲の中で同一性を保っているかどうかについて第三者の判断が必要になります。